とりかへばや日記

戸籍の性別を取り替えるまでの記録

性別適合手術、通称SRSの話

気づけば、入院まであと二週間になっていた。

 

必要そうなものはいろいろと買い込んだ。

出血などで汚れたりワンチャン失くしたりしても構わない安い下着、同じく安い靴下、使い捨てのストロー、そして500mlペットボトルの水を1ケース。

飲食物は持ち込み禁止と言われているが、水はどうなのだろうと思い、入院のしおりなどを読み返したがよくわからなかった。ネットで調べると、給水機、給茶機がある病棟もあるが、多くは食事のときに配給されるお茶くらいで、もっと飲みたければ売店で購入することが多いらしい。

自宅から少し距離のある病院への入院なのもあり、他県にいる親はおろか、同棲している彼女もあまり頻回には来られない。一週間の入院なので、来てもらえても1、2回だろう。そして手術の後に売店まで歩くのも、できるかどうかわからない。できたとしても、正直面倒なのであまりしたくない。

その結果、ネットでミネラルウォーターを1ケース買って、そこから十数本を持参することにした。ネットの箱買いなら、院内コンビニで単品買いするより安いし。そして水なら、コーヒーやジュースと違って治療にもあまり影響ないだろうし。まぁコーヒー飲めないけど。

 

そういえば、性別適合手術、略してSRSと言われる手術の話をしたい。

以下は日本国内の話であり、タイを含め海外ではいろいろ異なる可能性があることをご留意いただきたい。

 

SRSでは、主に生殖器を切除することになる。つまるところ、自分のように女→男の場合は、子宮と卵巣を一式取り除くのである。男→女は、精巣と陰茎を取り除いて、膣を造設する。以前の投稿でも書いたが、女→男でホルモン治療で身体が変化済み(具体的には陰核部分が発達して小さな陰茎のようになる)の場合は、わざわざ付け足すことは必須ではなく、あくまでオプションだ。そして乳房を取る/付けるのも、法律では求められていないので同じくオプションである。

自分は、乳房はいつもいつもナベシャツ(コスプレイヤーなのでコスプレ用の胸潰しを使っていた)で潰すのが面倒なので切除した。もちろん費用はかかったが、メリットが大きいと思ったのでやってもらった。

陰茎は、正直なくても日常生活では困らないし、せっかく作っても腐って取れて再手術になることもあると聞いたので、造設しないことにした。トイレは職場では座りション男子で通っているので小便器でなく個室で用を足すし、事情を知らない職場の同僚等と温泉旅行に行くこともまずない職種だからだ。男子トイレの個室はたいてい女子トイレより少ないので並ぶこともあるが、今のところ大事件を起こしたことはないのでたぶん今後も大丈夫だろうという予測だ。旅行先での温泉も、正直タオルでごまかしてササッと入れてしまっているので、まぁ要するに自分の場合は陰茎は要らないのである。

ただしこれは各当事者の状況、希望によるので、どこまでやるのが平均的だとか、正解だとか、そんなのはない。

何もしない人、ホルモンだけの人、胸を付けた/取った人、SRSを受けた人、戸籍を変更した人。どの生き方をチョイスすべきかは、その人しか決められない。その人だけの人生なのだから。

自分はただ、自分が選んだことの体験記を残すだけにする。

 

話を戻そう。

女→男のSRSの方法は、大きく二つあるらしい。一つは腹腔鏡、もう一つが開腹。

腹腔鏡は、腹とヘソに小さな傷をつけて棒状の器具とカメラを突っ込み、その棒を医師がマジックハンドのように操って、腹の中で切除を済ますものだ。正直、神業すぎて意味がわからない。ちなみに、膣にも器具を入れて、切った臓器の回収は下からするそうだ。

開腹は読んで字の如く、腹を切って開けて、臓器を切り出して終わり。よく医療ドラマでやってるようなアレだ。

いずれも普通の婦人科手術(子宮体がんの切除とか)でよくやる方法らしい。膣自体は残るが(これも封鎖し、会陰部を真っ平にしてしまうオプションもある。自分はこれはやらない。これまた追加料金がかかるし、残しておいたほうが今後の人生で”いろいろと”使えそうだからである)、その先端の子宮に繋がっていたところが縫い合わされて行き止まりになるそうだ。なので、術後はしばらく性器から生理のような出血があるのと、膣での性行為は当面禁止になるそうだ。まぁ、当然である。

二つの違いとして、腹腔鏡のほうが残る傷痕も小さくてパッと見ではわからないくらいで済み、術後の回復も早いそうで、基本的には腹腔鏡でやるそうだ。ただ、本人の身体的都合で腹腔鏡が難しいときは開腹になることもあるらしい。自分は腹腔鏡の予定なので、術後の回復も早い見込みで、術後一週間で退院というわけだ。

今回お願いした病院はSRSパック料金(個室代、手術代、食事など入院に関わるもろもろの費用)扱いで値段設定してあったので、術式での値段の違いはなかったが、自由診療なので病院によっては違ってくるらしく、予約時には要注意である。特に、海外ではこの二つで値段も滞在期間もかなり変わるらしい。

 

海外の話で思い出したが、海外(主にタイ)と日本国内、どっちでSRSをやるか問題について。

少し前まで、SRSといえばタイに行ってなんぼ、という世界だった。その主な理由は、タイはSRSが盛んなので技術も高く、費用も日本より安いことと、少し前まで日本国内ではSRSをやれる病院が少なく、予約を取るのも大変だし、技術も海外より低いと言われていたからだ。

しかし、近年は少し変わってきている。SRSや胸オペをやってくれる病院が、日本国内にも増えてきた。関東のクリニックが中心ではあったが、総合病院や他の地方にも少しずつ広まりつつある。有名なところで、山梨大学岡山大学性同一性障害GID)治療を積極的にやってくれている大きなところだ。

関東ではジェンダー医療協議委員会というのも作られ、ホルモン治療やSRSについてきちんと複数の医師で協議して、その人にその治療をしてもよいのかを判断してから始めるというシステムになったそうだ(自分がホルモンを始めた頃はそのようなシステムはまだなかった)。SRSも、泌尿器科や婦人科の先生方で意欲的にやってくれる先生が増えてきている。

そして、コロナ禍や円安で、正直なところ渡航のハードルは上がっている。

 

結果として、2024年の時点でタイと日本国内でのSRSを比較すると以下のような感じだ。

費用:タイがかなり安く、国内の半分くらい(ただし渡航費など円安の影響はあるかも)

期間:入院期間自体は同じくらいだが、タイは移動時間や退院後も病院の近くのホテルで療養することもあり、タイの方が長くなりがち

技術:国内も決して悪くない 手術の可否の判定やGIDの入院の対応、手術のやり方も確立されてきている

予約方法:国内は当然ながら自分でググったり主治医に教えてもらったりして探し、自分で日本語で連絡して予約できるが、タイはかなり海外慣れしている人じゃないときつい。一応、病院の紹介や予約、手術の付き添いをしてくれるエージェント会社はある。もちろん仲介手数料はかかる(らしい)。

その他:タイは英語の紹介状が必要だったり手術前後に医療者と英語でやりとりする(or通訳に同行してもらう)必要があったりと、言葉の壁がある。

万が一術後にトラブルが起きた際、再渡航する必要がある(国内で対応してくれる病院もあるのはあるが、再渡航になる覚悟は必要)。あとは気候や食事などの慣れない環境はある。

 

個人的には、費用以外でタイへ渡航することへのメリットは感じられなかった。

知らない国の慣れない環境で手術を受け、長時間のフライトで日本に戻るよりは、母国語でやりとりできて病院食で味噌汁を飲めるところで手術を受けて、なるべく短期間の休職で早く仕事復帰して手術費用の出費分を稼ぎたいと思ったので、最初から日本の病院に絞り、予約をしたのである。

しかし、これまた、SRSを受けたい人それぞれの状況、価値観によって最適解は変わってくる。少しでも安く抑えたい人、数え切れないほどSRSをやってきた先生にお願いしたい人、ついでにタイ観光もしたい人など、「タイのほうが絶対よくね?」という人もいるだろう。その人たちはタイを選んで正解だろうし、自分のようにできるなら日本を出たくない人も正解だ。

 

あと、例えばパクチーナンプラーより納豆と醤油が好きな自分みたいな人は、日本国内がおすすめかもしれない。